「へぇ…なかなかよいお住まいで」
「でしょ?」
ひひっとミキが笑う。
ミキは笑うとき、目を細める癖がある。
「んじゃ、またな」
「気をつけてね」
ミキの声を背に、僕は自転車をこぎだした。
夜の小道に、僕の自転車の音だけが響いた。
…自転車を漕ぐ修平の背を、ミキは見えなくなるまで見送っていた。
修平は、一度も振り返らなかった。
わかっていながらも、期待していた自分にため息をつく。
「特等席…ね」
最後までミキを乗せて走ることのなかった自転車の音を聞きながら、微かな胸の痛みを感じていた。
くるりと振り向き、家へ向かって歩き出す。
夜風はまだ、涼しくない。
…8月は、もう半ばを過ぎていた。



