僕はカバンから携帯を取り出した。
パカッとそれを開く。
「あ…、コスモス…」
画面には小さなコスモスが映し出されている。
明日可は、食い入る様にそれを覗き込んだ。
「帰りにコスモス畑で見つけたんだ。何本か咲いてた」
僕も一緒にのぞき込む。
「早咲きのコスモスだね」
幸せそうに、画面を見つめる明日可。
その顔を見てると、僕も幸せな気分になる。
「…摘んできてやろうか?生のコスモス、見たいだろ」
僕は明日可に尋ねた。明日可のくりっとした瞳が僕を見つめる。
少しだけ視線を落として、やがて優しく微笑んだ。
「…ううん、いい。せっかく綺麗に咲いてるんだもん。一生懸命咲いてるから…。あたしは、これで充分」
明日可は軽く携帯を持ち上げた。
「…そっか」
僕も軽く微笑んだ。
…僕と明日可とでは、『生きる』という価値観が違うのかもしれない。
明日可はきっと、僕より命に敏感だ。
この価値観のずれは、もしかしたらずっと埋まらないかもしれない。
それでも…。
「…じゃあ、退院したら一緒に見に行こうな。満開の、コスモス」
笑顔で頷く明日可。
…それでも僕は、わかっていきたい。
少しずつでいいから、歩み寄っていきたい。
それが今、僕にできることだと思うから。



