改まって聞かれると、どうも言いづらい。
髪をクシャッとしながら、俯きかげんに答えた。


「…水泳大会の日…ありがと」

…水泳大会の日。
ヒロミは僕を明日可の元へと連れて行ってくれた。

あの日は明日可のことでいっぱいで、お礼の1つも言えなかったけど。

「ああ、あの日のことな。…あまりにも、お前が一生懸命だったから。一年の時からお前らのことは見てるが…あんな、周りが見えなくなるようなお前は初めて見たよ」

ヒロミは、生徒に人気がある。
それはただ有名人に似てるからってわけじゃなくて、本当に僕たちのことを見てくれてるから。

ヒロミになら、心の深い所にある普段言えそうにない悩みも吐き出せそうになるからだ。


「…俺さ、」

僕はゆっくり口を開く。

「あの時…まじで焦った。明日可の病気を…初めて目の当たりにした。それまでは、俺があいつを守るって簡単に思えてたけど…正直、怯んだ。すげぇ情けないけど、震えも止まんなかった」

ゆっくりと話す僕の言葉を、ヒロミは真剣な目で受け止める。

「なぁ…先生。『守る』って、どういうこと?どうしたら、明日可を守れるようになる?…守れる強さを、持てるようになる?」