「あ、迎え来ちゃった。はい、これ、使ってね」

彼女は傘を無理やり僕に押し付けた。そうされたら僕は受けとるしかなくなる。

水色の傘が僕に渡ったのを確認して、彼女は笑顔で言った。


「じゃあね」


少し小ぶりになった雨の中を、折りたたみ傘を開かずに小走りで出る。

少し行ったところで、思い出したかのように振り返った。
スカートの裾が、茶色い髪の毛と同じ向きに揺れる。



「名前、明日可ね。下の名前」


車の中から、大学生くらいの長身の男性が傘をさして出てきた。
彼女は何のためらいもなく、その傘の中へ飛び込む。

男性は助手席をあけて、彼女はそこへ座る。
少しこっちをみた後、軽く手を振っていた。


全ての情景が流れるように動く。


僕はまた、直立不動に陥っていた。





「…彼氏かよ…」







『傘、ないの?』

『体育館で、目があった子だよね?』

『名前、明日可ね。下の名前』



…今日の彼女の言葉を反芻しながら、タイヤの作る水しぶきの音を聞いた。