「ね、名前、何て言うの?」
ようやく笑いを止めた彼女は、大きな瞳をこちらに向けなおして聞いてきた。
やば、目、泳ぎそう。
「須川…修平です」
「スガワ君ね。あたしは…」
「あ、知ってる。瀬堂さん」
「知ってる?」
思わず言ってしまった彼女の名前。ヤバい、焦る。
別に知っててもいけないことはないのだけれど、僕の気持ちが気持ちだけに、急いで付け加えた。
「あ、あの、水頭和貴って奴、前、瀬堂さんと同じクラスで。あいつに聞いた」
「あぁ、スイズ君か。一緒に怒られてた」
ふふっと思い出し笑い。
サラサラの髪が揺れる。
ヤバ、可愛い。
「あの…」
僕の声に彼女が目を上げた瞬間、車のクラクションの音が雨音を掻い潜って届いた。
それが僕の言葉を遮る。
何を言おうとしてたかもわからなかったので、助かったといえば助かった。
でも。



