結城中学校3年B組の教室で、朝の出欠確認が行われていた。

美人教師と名高い担任の星野(ホシノ)が、出席簿に目を落としたまま、順番に名前を呼び上げている。


「眞森将斗(マモリ ショート)くん」


『はい』


 ショートの周りの席に座るクラスメイトたちが、一斉に彼の机を見た。

その席に、ショートの姿はない。机の中から、ショートの声だけが響いたのだ。

しかし、星野は出席簿に目を落としたままで、まだ気が付いていない。


「真守大河(マモリ タイガ)くん」


「はーい」
『はい』


 本物の真守大河と、声だけのショートが同時に返事をした。

同時に二人分の返事を聞いて不審に思った星野は、ようやく出席簿から目を離した。

ショートの席に人が座っていないことを確認すると、その視線はそのまま教室の後ろの扉へと移った。

後ろの扉が音もなく、ゆっくりと開かれるところだった。


 扉をそーっと開けて、こそこそと教室へ入ってきたのは、まだ幼さの残る顔立ちのショートだった。

腰を屈め、クラスメイトたちの背中に隠れるようにして、教室のちょうど真ん中にある自分の席へ向かう。

音を立てずにイスを引き、静かに着席したところで、ショートは星野に見られていることに気が付いた。


 星野はコツコツとヒールの音を響かせながらショートの横まで進み、怒りを堪えるように自分の胸元をつかんだ。

そしてショートの机の中へ腕を突っ込んだ。

慌てるショートを尻目に星野が机の中からひっぱり出したのは、弁当箱のような黒くて四角い箱だった。


「眞森将斗くん」


『はい』


 星野が声をかけると、その箱からショートと同じ声の返事が発せられた。