開け放たれた大きな扉の前でサングラスを外すと壁をなぞる様に中へ入った。
正面には十字架に張り付けられたキリスト像が見える。
右京は悪趣味だと思った。
かつて異端とされ自らが担いだ十字架に張り付けられ死んだ男、イエス。
その最後の姿をそこに奉っているのだから…
イエスはただの不運な人間の男だ。
彼自身も後世こんなにも自分が有名になるとは思っても居なかっただろうに。
祈りを捧げる人々を見渡し、長椅子の端に手を触れてみる。
ある程度強い思念が残っていればそれを読み取るくらいのサイコメトリーは出来る。
あまり得意ではないが、年代物のそれには多くの人々の想いが読み取れた。
誰々の病を治して欲しいとか、今は亡き者に会わせて欲しいとかが殆どだ。
だがそれらに紛れて微かに邪念もある。
何故自分ばかり不幸なのかとか、憎い誰々を殺してくれとか…
いったい神をなんだと思ってるんだ…
都合よく願いを聞いてくれる万屋のように考えているのか…?
仮にそうだとしても、一人一人そんな願いを聞き入れていたら天界の者が何人居ても足りない。
特に天使には人間を見下している者が多く、残念ながらそうそう思い通りにはいかないだろう。
右京は小さな溜め息をもらすと、視線の先にあるマリア像に近づいた。

