首のない騎士の伝説は有名で、よく兄が話してくれた。
『アンナ…こんな夜中に逃げ出したら“デュラハン”に捕まるぞ。
捕まりたくなかったら黙ってろよ。』
そう耳元で繰り返すねっとりとした気持ち悪い声…
何度かそんな夜を経験し、次第に考えるようになった。
…兄に捕まるのと…
…デュラハンに捕まるのは…
…どちらがいいのかしら…
答えは明白だった。
あのねっとりとした気持ち悪い声も、欲情して荒くなる息も…デュラハンにはない。
だって頭がないんだから…
なら、兄よりデュラハンの方が何倍いいか!
森を裸足で疾走し、デュラハンを探す。
兄に捕まるのが先か、デュラハンに会えるのが先か!
そして私はやっと会えたのだ…!
『デュラハン!!
私を連れ去って!!
兄から私を解放して!!
私は…』
私はあなたの力になる。
だから、私を助けて…!
デュラハンは私に手を伸ばした。
その手を握り返すと、彼は漆黒の馬の背へと引き上げた。
その後の記憶は曖昧だった。
気が付くと部屋のベットで寝ていて、兄が行方不明になったと両親が騒いでいた。
夢…だったのだろうか…
が、俯いた視線の先にある自分の汚れた足を見て現実だった事をすぐに理解出来た。