昔はなんの疑いもなしに神を信じていたのに、今は科学的に頭で考えてしまう。
『純粋な信仰心はどこへ行ってしまったのやら…』
『人間はそんなもんですよ、ドクター。
だけど、信じたい気持ちがあるからこうしてミサに参加してるんでしょう?』
『…先日“救世主”を見たという患者がいましてね?
私も信じてみたいんですよ…本当に居るならね…』
『救世主ですか…はは…どんな人物なんでしょうね…』
『その患者が言うには“黒いコートの男”でフードを深く被ってるらしいですよ?』
『…へぇ…黒いコート…ですか…それはまた…想像していた人物像とは真逆ですね…』
ダンは困った様に間のある返答をするのを見て、ベッカーはクスリと笑った。
『不思議でしょう?私も天使のような人物像を想像してましたから…
でももし本当に居るなら、近い将来悪は無くなるかもしれませんね。』
『…私の知り合いが言うには、悪があるから善があるんだそうです。
世の中はそうしてバランスを取っているから、悪そのものを絶つのは難しいらしいですよ。』
そう話すダンにベッカーは関心したように『なるほど』と唸った。
『さて、そろそろ私は用事がありますので…』
『今日はお会い出来て良かった。』
去って行くダンを見送ると、ベッカーは再び祈りを捧げるのだった。