週末の早朝、いつもならオフィスへと向かうベッカーだが、珍しく教会へと来ていた。


賛美歌の音を聞きながら空いてる席に着くと牧師の話に耳を傾けた。


手を合わせ、神に祈りを捧げる。


この形式めいた一連の動作は何年ぶりだろうか。


『ドクター?…Dr.ベッカーじゃないですか?』


振り返ると見覚えのある男がベッカーに向かって軽く手を上げた。


『君は…警察署で会った…』

『ダニエル・クラフト警部です。』

『クラフト警部。奇遇ですね。』

『ダンでいいですよ、今日は非番ですから。

ミサにはよくいらしてるんですか?
ここで会うのは初めてですね。』

『いや、ここ数年ずっと来てなかったのですが、やっと時間が出来たので…』

『ドクターは忙しそうですしね…

評判は聞いてますよ。』


屈託のない笑顔でそう言われ、ベッカーはつられて笑みを浮かべた。


『ドクターの専門は犯罪心理学でしたか?』

『ええ。この仕事をしていると神の存在すら否定したくなりますよ、カトリックなのに…。

世の中の犯罪は一向に減る気配がない…』

『分かります。自分も同じ事を思う時がありますから…

実は私もミサに参加するのは久しぶりでして…』


犯罪者と接する事が多い分、信仰心も薄れてしまう気がするのは自分だけではない様だ。