『グリーンさんはその使者を見たのですか?』


そう聞くと『未来で見た』と彼は答えた。


彼は魔女宗の女性に誘われついて行くと、薬を盛られて儀式の犠牲となったのだ。



彼の言う未来とは、薬による幻覚である。

幻覚による妄想と現実が混ざってグリーンは実際何があったのか解らなかった。


何度か診療を重ねると、やっと自分の置かれていた状況を理解したようだった。


『あの場で見たビジョンで使者を見たんですか?』

『はい…黒いコートを着た男でした。』


…“黒いコートの男”…


グリーンは確かにそう言った。


普通なら患者の妄想からその心理を分析するのだが、警察が捉えた魔女宗の数人も“黒いコートの男”を見たと話していたのだ。


警察は『仲間のひとりを見間違えたのかもしれない』と言ったが、ベッカーにはそうは思えなかった。


…本当に居たのだろうか?


だが実際に現場の捜査に当たった刑事の話では魔女宗の12人、それとグリーンを合わせた13人しか居なかったのだ。


『Dr.ベッカー。患者さんが来ましたよ。』

『あぁ、通してくれ』



我に返ったベッカーが看護婦にそう言うと、グリーンが入室して来た。


『こんにちは、ドクター。』


最初会った時はやつれていたが、今はやっと元に戻ったようで普通の若者に見える。