『次の満月の晩に、一緒に奇跡を起こさない?』
そう男に言ったのはアンナと名乗った女だった。
男は“奇跡”という単語に興味を持った。
『“奇跡”とはどんなものなんだい?』
『素晴らしい事よ!
とても言葉で表現出来ないわ。』
男はPC画面を見つめ、なんて返そうかしばし考えた。
『確かに満月なんて最高にロマンチックだね。』
『ロマンチックというよりファンタスティックという表現が正しいわ!』
チャットの返信が早い。
アンナが少し興奮気味なのが判る。
男は得体のしれないこの女に会ってみたいと思っていた。
これはチャンスかもしれない。
月夜のムード満点な雰囲気で、あわよくばイイコトまで漕ぎ着けるかもな…
ひとりほくそ笑んで『それは楽しそうだ』とキーボードを叩いた。
ネットというのは便利なものだ。
無駄な金を使わなくても女を引っ掛ける事が出来る。
必要なのは相手を安心させる紳士的な文章力だ。
アンナは『決まりね!待ち合わせは…』とノリノリな返信がすぐ来た。
…コイツもチョロいな。ククク…バカな女!
ニヤニヤしながら待ち合わせ場所をメモして『オーケー』と答えた。
『満月の晩、最高にファンタスティックな事を一緒にしよう。』
ちょっとした口説き文句にも受け取れるが、まぁいい。
どうせ二度目はないんだから。
男は『たっぷり楽しませてもらうよ』とPC画面に向かって独り言を呟いた。

