白川高原スノーリゾートのスタッフ休憩室は、センターハウスの最地下にある。
12畳ほどのスペースにテーブルと椅子が雑然と並べられていて、昼間は給食スペースに、夕方からは喫煙兼休憩スペースになっている。

と、いっても職員寮の夕食が17時には準備されているので、夕刻にここを使う人はあまりいない。みんな、仕事を終えたらさっさと寮に帰ってご飯を食べるのが通常だ。



「…やっちゃった、なぁ…」

シュンくんを待ちながら、あたしの頭は昼間のミスでぐるぐるフル回転していた。

奏さんの告白大作戦。
けっこう長い時間をかけて入念に準備してきたはずだった。

だから、いけなかった。…思い入れが強すぎたんだ。

放送を担う“伝え手”としての意識の欠如。
それが、さっき反省会でトウマに繰り返し注意されたことだった。

どんなにインタビュー相手に感情移入しても、どんなにそれが自分の好きなことであっても、聴いている不特定多数のリスナーにとって全く関係のないことだ。

伝え手は常に“公平で公正な”目を持って目の前の事実を伝えなくてはならない。

それが、マスメディアにおいて情報を発信するということの“基本中の基本”。それが…

あたしは出来なかった。
奏さんの作った歌に惚れこんで、明ちゃんにも会えて、2人がうまく恋人になってくれれば…というその願いが強すぎて、マイクを握っている自分の立ち位置がよくわからなくなってしまったんだ。

ああ、反省、なんて言葉じゃ言い表せない。めっためたに打ちのめされた。今日は、全然だめだった。

興奮を伝えつつもマイクの向こう側にいる人たちのことを考えて中立の立場で喋らなきゃいけない、なんて。(つまり冷静と情熱の間ってとこ?)言い得て妙だけれど、それがどんなに難しいことか。



…そんなことをツラツラと考えていたら、休憩室の扉がコン、と控えめに音を立てた。