「―…時間が無いんだから、仕方がないだろう。文句があるなら捨ててくぞ。」
艶やかなバリトンボイスも、いまは地獄の底からの響きにしか聴こえない。
そんなトウマの向こう側に広がる景色は、延々、鬱蒼とした山林。明かりひとつ見当たらない。
「ヤダっ!!捨てないでっ!凍死しちゃうっ!」
「じゃあ大人しく乗ってろ。」
「いやぁぁぁあぁぁぁぁ!!」
――…こんなはずじゃ…!!
たとえば5月の晴れ渡った空の下ならば。
こんなに爽快なドライブはないだろう。
けれど。
今は12月31日大晦日の、午後5時30分。日暮れもとうに終わって一番星が輝く頃なのだ。
加えて、この速度。
何キロ出てるのか知らないけど
ボォォォオ、という風の音が凄くて、会話どころじゃない。
”ふたりっきりの車内”なんて甘い妄想は、怒涛の寒風・烈風が一瞬で吹き飛ばしていった。



