トウマは、意地悪だ。



何でも分かってる、って顔して

あたしの胸の奥の一番やわらかいところに
平気で、踏み込んでくる。



あたしが何かを考える前に
ものすごいスピードで入ってきて

気づいたら、もうトウマのペースで。



ここに入ったときは
トウマの声しか知らない、言ってしまえば“ミーハーなファン”だったのに――…



いつの間に、こんなに溺れてたんだろ。




だってこれって、完全に恋だ。



毎日、ダメ出しされるし。怒られるし。意地悪される。


優しくされたことなんて、一度もない。



なのに。

それすら“もっと”と思ってしまうなんて。




「重症だわ、こりゃ…」



遠ざかるトウマの背中を見送りながら

山下達郎よりも甘やかなため息が出た。