イヴァンが近づいてくる。

「琴、準備は出来た?」

子鉄が琴をせかす。

「幸福を、得るためにゃ」

琴は詠唱をはじめると転移陣が光り始める。

「二人とも、頼んだわよ」

一人と一匹は転移陣に乗って、戦場へと駆け出した。

子鉄は鉄球を腰のホルダーに直す。

「退魔師としての仕事としちゃ、大きすぎるわね」

「子鉄、そなた、一人では、止められぬ」

龍姫が立ち上がろうとするが、力が入らないようだ。

子鉄は雲丸のおっさんから譲り受けた時雨を抜いた。

「退魔神剣」

子鉄が呟いた瞬間、湯気のようなものが立ち上がる。

刃の側面に呪符を滑らせると、光り始めた。

見た事がない技だ。

「いつも思う事があるのよ」

独り言のように話す。

「生きるって、簡単なように思えて難しいわね」

微笑を浮かべながら、イヴァンへと走り出す。

「逃げるのじゃ!子鉄!」

龍姫が必死になって叫んだ。

子鉄とイヴァンの間に衝撃が走る。