とある映画館。田舎町であるからか客足も数年前よりもかなり少なくなり閉館も時間の問題だった。

館長のAは今年で還暦を迎える。そろそろ年齢的にも閉館して老後を楽しんでも良いのだがAは映画をみた後に興奮しながら映画館から出てくる観客を見るのが楽しみだった。



Aは前から考えていた秘策をこの機会に試すことにした。ポップコーンのなかに睡眠剤を入れるのだ。ポップコーンを食べて眠った観客はまた同じ映画を見に来るだろうということを昔から妄想していた。もちろん成功する確率は低い。しかし少しでも客足を増やしたいのだった。そうすればまた多くの興奮して映画館から出てくる観客の顔を拝めると思ったのだ。



数日後この映画館は大盛況となった。だがAはまた数日後に映画館を閉館した。そう,そこには観客の興奮する顔はなかったのだ。この映画館は不眠症患者の巣窟となったのだった。