「・・・それじゃ、樹里・・・怜悧のことよろしく。」
「はい。任せてください。お仕事無理なさらないで下さいね?」
「・・・うん。」
あっという間に時間が過ぎ、凛が旅館へ戻る時間がやってきた。
玄関で上着を差し出す樹里ちゃんと、当たり前のように受け取る凛。
夫婦のお見送りを見ているみたいだ。
名前だけでビクついていたあの姿は何だったのだろう・・・
結局、怜悧は樹里ちゃんの家でお世話になることになった。
「・・・怜悧。なんかあったら電話して。」
「お、おぅ。」
「大丈夫ですわ。樹里がいるもの。」
樹里ちゃんがキリッとした表情で答える。
その表情をみて、凛がかすかにクスッと笑う。
樹里ちゃんの頬が桃色に染まる。
樹里ちゃんに会ってから今日初めて見せた笑顔だった。
凛は引き戸を閉めず、そのまま外に出た。
徐々にその背中が遠ざかる。
樹里ちゃんはその背中が見えなくなるまで身動き一つせず見送った。
きっと、樹里ちゃんが見えなくなるまで見送っているのを知っていて閉めなかったのかもしれない。
.

