「ヒッ‼」
運悪く、叩き付けた希夜の拳(コブシ)に血が滲(ニジ)んでるのを発見してしまった。
「いった・・・」
「は?キミは痛くないでしょ。」
私は痛くないんだけど、見た感じがすごく痛そうで思わず希夜の拳(コブシ)を壁から離す。
「そうだけど、痛そうじゃん。」
「へぇ・・・」
希夜の大きなネコ目が怜悧を探るように見つめた。
「なにを考えている・・・?」
ぼそぼそと呟く希夜の声は怜悧には届かない。
後から考えたら自分は大胆なことをしていたと思う。
拳を広げ、傷口を調べていた。
「手当てしないと・・・」
「・・・?」
怪訝(ケゲン)な顔で私を見遣る。
取り乱していたが、私の言動で気がそがれたようだ。
先ほどまでの緊迫した空気がウソみたいに和らぐ。
「俺の心配までするなんて・・・余裕だね?・・・フフフ」
ひぇーーーー
その代わりいつもの希夜に戻ったし‼
こちらはこちらで恐ろしい。
「そういえば、さっき誰かと話す声が聞こえたはずなんだけど。」
私から視線を外し、草むらへと目をやる。
すっかり忘れていたが鈴音が隠れているんだった‼
どうしよう。
私達が隠れていたところは長い草と木がまばらに生えているだけで、見つかるのも時間の問題かもしれない。
足を踏み出す希夜の腕をとっさに取って、引き止める。
だが、希夜はクイッと私の顎を軽く上げ、猫にするみたいに喉元(ノドモト)を撫でると
「そう慌てないで。後でゆっくり相手してあげるから・・・フフフ」
と言い残し、草むらに足を進めたのだった。
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