「痛っ・・・」
顔の横に逃げられないように付いた右腕。
細いものの、長く筋張った男の腕。
私の力では敵(カナ)いそうにない。
怯えているのを悟(サト)られたくなくて、ガタガタ震える身体を貧乏ゆすりのように見せかけ、強く睨む。
「何を企んでいる。」
底知れぬ怒りの気配に身震いする。
「答えろ・・・不可解なことばかりだ。」
不可解?
希夜の方がよっぽど不可解だ。
「・・・やはり高龍寺 悟と通じているのか?」
言っている意味が一つもわからないのだ。
一時の沈黙の後、突如(トツジョ)として希夜の表情のない顔が歪む。
まるで、欲しいおもちゃを買ってもらえなくて、泣きわめく寸前の子供のような表情だ。
そして、サラサラの自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにかき乱した。
ドン‼
「一体どういうことなんだよ‼」
右拳を強く壁に叩き付ける。
感情を露(アラ)わにする姿に私はポカンとしてしまった。
いつもの様子とだいぶ違う。
一体どういうことなんだってこっちが言いたい。
企んでるって、鈴音のこと?
やはり高龍寺 悟と通じてるって、どう解釈したらそんな答えに。
理事長には目をつけられているような気がするが、鈴音と理事長の接点は今のところない。
そして、希夜はなぜそんなに余裕のない様子なんだ?
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