「ラース!!」
濡れた体を引きずって、懸命にラースの所へ駆け寄る。
失いたくない一心で力いっぱいその広い背中を抱きしめると、彼はびくりと肩を震わせて動きを止めた。
抱きしめた背中も、冷たく濡れていた。
「ラース…っ」
行かないで。
どこにも行かないで。
無茶なお願いだってわかってる、あなたが私を見てくれないことも知ってる。
互いのささやかな体温が重なって、じんわりと温かくなってくる。
こんなに幸せな時間が、他にあっただろうか。
「黙っててごめん」
ラースの声が、雨に溶けこむ。
それはとても、弱々しい声だった。