初彼=偽彼氏



「オレがおまえを、偽彼女役として選んだのは――」


 さっきまでの顔とは全く違う、今まで見たこともない――、とても真剣な顔でジッとあたしを見つめながら話す神藤くん――


「……もちろん、おまえ…姫季は自覚なしだろうけど、姫季が有名だからっていう理由も少しはあった。姫季と付き合うってなれば、すぐに話が広まるから」


「え――?」


「でも…それだけじゃない。理由の中にはオレが今一番困ってることで、今オレ達の周りにいるヤツらから言い寄ってこれること、オレにとってそれが最近スゴい迷惑でうんざりだったんだ。……で、そういうヤツらから少しでも言い寄られないようにするために…誰かと付き合おうと思った」


 それは有名人にしかわからない――、有名人ならではの悩み――…。


「――でもそういう言い寄ってくるヤツらとは絶対に付き合いたくはなかったから…、それならオレのことをあまり知らないヤツに少しの期間で良いから、オレの彼女のフリをしてもらおうって思った」


 はぁ……、と息を吐いて、頭の中で丁寧に言葉を考えながらもう一度話を続ける神藤くんの様子を見ていると、初めて会った時の印象を崩すには十分で、神藤くんの緊張があたしにも伝わってきそうだった。