――その目的地に着いた瞬間、"彼"の手にずっと握られていたあたしの右手は解放されて。


 そのあとすぐに――、あたしの隣に立って、あんなに沈黙していた"彼"の視線があたしに降ってきて。そんなあなたの視線に耐えきれず、あたしはあなたと向き合う――
 けれど、あなたが話す気配は全くなくて。


どうすれば良いかわからなかった――…





 ――…ついにこの沈黙に我慢することが出来なくなり、あたしは目の前にいる"彼"に話し掛けた。


「……あの?あたしをここまで連れてきたってことはあたしになんの用があるんですか」


「……ふっ」


「…なんで笑うんですか?」


「いや、悪い」


「……あのさっきから聞いてたんですけど名前。あなたの名前教えて」


「――オレの名前?」


「…そう言ってますけど」


 名前を知らないのに用事を言われたって、もしその用事に対してそれが"YES"か"NO"かで答えるとしたらどちらも無理なこと。