ちょうど、絢人が転校したばっかりの頃の話だ。

俺はトイレから教室へ向かおうとした時、玲と絢人の話し声が聞こえたので、盗み聞きをしていた。

アイツ、転校してまだ二日目だったから、話しかけづらかったから、突っ立っていた。

「おい、転校生。何泣いてんだよ?」

昔の玲はものすごく男っぽかったなぁ。

「キミ、誰…?」

「玲サマだ。それに“キミ”じゃねーし。ほら、この私が話を聞いてやる。」

「え?良いの?…実は、筆箱を無くして…どこにも見当たらないし…」

「わかった。この私が一緒に探してやるから、貴様、私の下僕になれ」

「わかった。ありがとう。玲サマ」

このときの絢人は『下僕』の意味を知らなかったみたいだ。

次の日、絢人と俺と他の男子が、玲の荷物持ちをされた。

小学六年生の時、男女対抗ドッジボール大会が開かれて、女子が負けそうだったのに、

玲が一人で内野に居る、男どもを片付けてたな。

それから、玲は空森小学校内で有名になって、男にも恐れられていたなぁ…








俺が勝手に思い出に浸っていたら、絢人が恐る恐る、俺に効いて来た。

「久しぶりの玲サマはどうなんだ…?」

「そ、それが…」

「それが?」

「ものすごく、女らしくなってた。ぽっちゃりは、変わらなかったけど」

大輔は、ファーストフード店の窓の外に居る、猫に興味深々で、俺達の話を聞いてなかった。

「小学生の時の口調は命令形と言うか、男らしかったけど、今は、ものすごく女の子っぽいって言うか…」

「そうか…」

「あ、逃げた」

大輔は、窓の外を見るのをやめて、俺達をみた。

「で?その“玲サマ”はどんな女だったの?」

お前、聞いてなかったのかよ!