**葵**


「葵先生!」


君の担当だった看護師から廊下で声を掛けられる。


「何でしょうか?」

「これを福田紫乃ちゃんから、葵先生に渡して欲しいと頼まれました。」


そう言われて差し出されたのは、僕が君に貸した腕時計と一枚の紙。

僕はそれを受け取ると、事務室に戻り紙を広げる。

それは君からの手紙だった。

手紙には手術のお礼。腕時計を借りたお礼。特別室のお礼。

とにかく“ありがとう“という言葉ばかりが書いてあった。