誠の母さんとの電話を終え、受話器を置いた後も、しばしの間、その場所からは離れられなかった。

立ち尽くした電話の前。

頭に浮かぶのは幼い頃の誠。

いつも二人でいたずらばかりして、先生に一緒に怒られている時の誠とか…

実は走るのが苦手な誠。運動会や体育祭ではいつもビリで…みんなと離れ、たった一人で悲しそうに泣く誠とか…

くったくのない笑顔で周りと笑い合う誠とか…


“拓哉”って…誠が呼んでいる気がする。

こんなにもお前と過ごした時間は濃密で楽しかったのに。

なんで…

…なんで、自殺なんだよ…

なんで死ぬんだよ?

なんで…死ぬ事を選んだんだよ…

なんで死ぬ事を選ぶ前に、俺に“どうにかしてくれ”って頼らなかったんだよ…

どうして俺にお前の笑顔を守るという役目を与えてくれなかった?

なんで…なんでなんだよ!!

悲しいのか…悔しいのか…怒りから来ているのか…

俺は何度も何度も壁に向かって拳を奮っていた。