『…そっか』
『どうした?』
『あ…いや、今日休みなんだ。
お前の職場近くまで一緒してもいいかな?』
『…おぅ』
いつもと変わらない誠。
でも誠を取り巻く空気は重く感じられた。
『なぁ、拓哉!
ここ、覚えてるか?』
誠が指指した場所は神社を囲い込むかの様に生い茂った木々。
『あれだろ?
お前がカブトムシを採りそこねた場所。
昔から誠は鈍臭いからさ?ここでもカブトムシの捕獲に失敗してやんの』
『ちげぇよ!
俺が採る前にお前が採っちゃったんだろう!!
あれは本当に悲しかったよ』
誠はムキに反抗するかと思えば、懐かしい記憶に微笑んだりする。
『でも。
あの後、そのカブトムシを木に放したんだよな?
それで俺に“誠!誠、いた!”とか形相変えて知らせにきてさ…
俺にカブトムシを捕まえる経験をさせてくれたんだよな…』
たんたんと語る誠。
何故、昔話ばかりするのか…俺には疑問だった。

