「悪かったな、ルカ」
フランさんは、ルカに歩み寄った。
「私は、チヅルを一人ここに残し、ずっと寂しい思いをさせてきた。
おまえが生まれてからも魔界から抜け出せず、ずっとチヅルに育児を任せたままだった」
フランさん……
「おまえの事を見てやれる時間もなく、おまえが成長するごとに、おまえのことがわからなくなっていった」
「………」
「私は魔界の王である前に、おまえの父親なのに」
「……父上」
クっと、声を漏らすルカ。
「ヘイリのことは、ずっと見てこれた。
あいつには母親がいないだろう?
あいつはあいつなりにずっと寂しい思いをしてきたんだ」
「……お母さんが、いない?」
あまりにもビックリして、思わず声に出してしまった。
だって、ヘイリのお母さんは、あの時にチヅルさんが言っていた“婚約者”なんだろ?
フランさんは、苦しそうに微笑みながら私の方を向いた。
「ヘイリの母親は、ヘイリを産んですぐ、家を出て行ったんだよ」
「え……?」
「王族は色々決まりごとが多いから、心が疲れたんだろうね」
そうなんだ……
だから、あの時。
ルカがチヅルさんの膝の上で楽しそうに笑っていた姿を見て、あんなに心が痛くなったのか……
嫉妬……?


