「よし、次いくぞー。さっき松井が訳してくれた………では、上の質問に対してエマは何と答えたでしょうか」
ジミーの話は、片方の耳から入ってはすぐに反対から出て行く。
今のあたしは『火事だー!!』って誰かに叫ばれても、すぐに反応なんてできないって思う。間違いなく。
“時田を今日も拉致していい?”
たったその一言、ノートの隅に書かれたその一文のために。
そして、その一文のために不意に名前を呼ばれピンチに見舞われたりもしちゃうんだ。
「そのまま訳すんじゃなくて、この時の二人の状況と気持ちに添って訳してほしい。
じゃあここを、そうだな…………時田、答えてくれ?」
ジミーが一番後ろの席に座るあたしを見て、恐らく周りより2テンポくらい遅れてそれに気づいたあたし。慌てて黒板と机の上の教科書に目を走らせる。
でも、授業を聞いてなかったのはもう結構前からだし。
「時田、どうした?」
ブラウスの内側、背中にじとっと変な汗が流れるのを感じた。



