「ん、うん。ゴッホン!」
彼の日課であるナンパを邪魔するつもりなんてないんだけど。でも、急がないと昼休み終わっちゃうし。
だから咳払いなんてのをしてみた。今どきマンガの中でもやってなさそうな技だけど。
「あ。湊ちゃんじゃん」
今日も変わらず軽薄な雰囲気を醸し出し、振り向いた黒髪ウェーブの男が言った。
「あのね、取り込み中のとこ悪いんだけどー」
言いながらあたしは、吉井の横にいる女子の顔をそっと伺う。
(やっぱり。また違う一年生だわ……)
思わず溜め息が出た。
「あのぉー吉井先輩?」
「あっ ごめんね。じゃあ後でメールするよ。えっと…… そうそうミユちゃん?」
あーあ。この男ってば口説いたばっかのくせに名前忘れかけてるし。