そんな会話を交わしながら、靴箱の前まで来た時だった。


「へぇー。湊ちゃんって彼氏いないんだ?」


座って靴紐を結んでいた吉井 尚太が顔を上げた。


げげっ!
やだなー。聞いてたの?

それに、“湊ちゃん” なんてやっぱり気安いなー。


緩めのウェーブがかかった黒髪。
シルバーフレームの眼鏡に、切れ長な瞳。

見た目で人を判断しちゃいけないけど、なんか吉井ってタラシ感たっぷり。

遊んでま~すって、オーラ全開だよね……。


なぁんて思っていたら

「恋をしようぜ! 恋を♪」

吉井があたしの肩に手を回してきた。


ちょ、ちょっとーっ。
気安いにもほどがあるっつーの!!


「もうっ 顔近過ぎ! ちょっ離してっ!」


吉井の腕から逃れた拍子に、勢いあまって危うく躓きそうになったあたし。

転ばずにすんだのは、靴箱の影にいた人物が受け止めてくれたからだった。