―――裏切る?


かのん?



「……志島君」


名前を呼べば、志島君のどんよりと暗い瞳に、いつもの光が射す。


正気に戻ったのか、私と九条の姿を確認すると、ふ、と息を吐いた。


「………ごめん。」





―――"いやなおもいで、ちょっとおもいだしちゃってさ。"


そう言って申し訳なさそうに笑った志島君に、言い知れぬ危うさを感じた。


(―――あぁ、このひとは。)


暗い何かに、雁字搦めにされて、捕われているのか。


そう確信した瞬間、何故かどうしようもなく泣きたくなった。