ジュリアンとの思い出の部分だけが記憶にポッカリと穴が開いてしまったローレンは、毎日、来る日も、来る日も、何かを思い出そうとしていた。


『なあ、ハーリー?』

『・・・・・?』

『私の挙式の日の事なんだが、馬車の前に飛び出してきた娘がいたんだ』


私とローレンが城の庭園で休息を取っていた時に、彼が持ちかけてきた話題。私は、挙式には出席していなかったが、すぐにその娘がジュリアンのことだと分かった。


『すぐに兵に捕らえられ、連れて行かれたが、エルミラーラはただの気の狂った村娘だと言うが、確かに私の名を呼んでいたんだ。

ただの村娘にしては、美しい娘だった。黄金色の長い髪の娘。君に心当はないかと思って』



 私は知らぬふりをしていた。



『・・・・・さあ?“黄金色の髪”なんてどこにでもいるからね。ミューシャンの館にだって沢山いただろう?』

『そうなのだが・・・・・、しかし、それがやけに印象的で・・・・・気にかかるんだ』

『陛下・・・・・』

『ハーリー、君だけはその呼び方はやめてくれ。本当であれば君がこの国の王になるはずだったのだから』

『私が?いいえ、違います。私の父には側妃がおりましてね、父は、その娘を世継ぎにと考えていたんですよ。ずっと……』

『そういえば、確か以前によくそんなことを聞いていたな。そう、確か二人の妹がいると。私は男だらけの兄弟の中で育ったので、いつも君を羨んでいた。

一人はエルミラーラ、我が儘な私の妻。もう一人は何と言う名だったか?』


彼は、本来の恋人であるジュリアンの名を思い出そうとした。


(いけない!思い出してはいけない、ローレン。君が、ほんの少しでも思い出そうとするなら・・・・・)


私はその問いを交わすように素っ気なく応えた。わざと“迷惑な事を聞くな”とでも言うような声で。