第二小節:回想


娘の名は、ジュリアン=クライン。


かつてのダルタ-ニ王国二十一代目国王“エルストン二十一世”を父に持ち、国王の側妃“ジュディッサ”を母に持つ姫君。


ジュリアンは、国の外れに離宮を建て、そこに住まわされていた。


ジュリアンを生んですぐに死んでしまったジュディッサと、私の実の母、エルストン二十一世の正妻“レノン”は、東洋の魔女を母に持つ美しい姉妹だったと聞く。


特に、私の母レノンは強くその血を受け継いでいたらしいく、私の妹のエルミラーラは、母親譲りのその魔力で、過去に取り返しのつかない大きな罪を犯してしまった。それは、禁じられた魔術、人の心を操る愛の呪縛で、ジュリアンの恋人ローレンを奪ってしまったこと。



愛の呪縛は成功率は低く、相手にもしも他に想い人がいた場合には、本当に愛する者を思う心と呪縛に縛られた心が対立し、その者の精神力を破壊してしまい、最悪の場合、その相手は、最終的に狂死してしまうという悲劇で幕を閉じることもある、と言われていた。


当時のダルターニ王国の法律では、正妃、側妃問わず生まれし男子に、生まれた順に王位継承権が与えられ、男子が生まれなかった場合、正妃、側妃問わず生まれ王女に生まれた順に王位継承権が与えられるが、王位継承者権を有する者が女で、継承権を持つ唯一無二の立場であった場合、それが女王となるか、迎えし婿に帝王学の学びを与えた後、正式に王とすることが出来る。とされていた。

正妃も側妃も平等にする権利と愛される権利があるというという主義を持った法律が、今の一夫多妻制度に発展した由来だ。


エルストン二十一世は、自分の世継ぎにと考えていたジュリアンが即位を断固辞退したとと、第一王子で最も世継ぎに相応しい立場の私さえ行方を眩ました事で戴冠式は保留とされていたが、後にエルミラーラの婚約者となったローレンが即位することを承知し、そして、ローレンとエルミラーラの挙式と戴冠式が同時に行われた。


それは、かつてに例を見ないほどの盛大な行事だったが、その日も無事に過ぎ、ローレンはダルターニ王国の王位に着いた。


エルミラーラが王妃となって、二人は祖国中の民から祝福を受け、ダルターニ王国は新たな時代を迎えたのだったが、・・・・・すでに時代は世紀末を迎えていた。


それを胸のうちで微かに予言できたのは、私の運命を見る力故でもあっただろうが、それより、数年ぶりに城へ還った私が、久しぶりに再開した懐かしい親友の顔を見た時、その表情に正気を感じさせていなかったことも一つの理由だろう。