第一節:再会


ベルシナ、サバル地方にある、ペルソワの街の繁華街。



既に日は昇り切り、活気の溢れる街のざわめきの中、大きな花束を抱えた娘が、今にも倒れそうな身体を無理やり引きずるようにして歩いている。


上等な布地で作られたであろう真っ赤なドレスも、すっかり汚れきって、引きずって歩いたせいか、その裾には黒土がびりついている。



風に弄ばれ、乱れた黄金色の長い髪が貌を覆い隠してしまい、乱れた髪の向こうに見え隠れしている頬が、痛々しく、赤く腫れ上がっているのが、時々見える。そして、歩く度に裾からかすかに見える素足は、痛々しいほどに血がこびりつき、傷口は土で汚れきっている。


なぜ、今時には見慣れぬこのような格好で娘は街を歩いているのだろう?



すれ違う者は皆、娘の貌を覗いて行くが、貌にかかる乱れた黄金色の髪と髪の透き間からは、虚な視線の碧色の眸が、不気味に覗き、人々は視線が合うことを恐れ、思わず目をそらしてしまう。



太陽が、こんなに照りつけているのに、一度冷えきってしまった身体は、そう簡単には暖まらない。


つい先程、街の時計台が“陽の中の刻”を知らせる鐘の音を、街中に響かせ、時間を知らせていた。


もう、半日以上の時間は走り、そして歩き続けていて、娘は立っているのが奇跡と言える程にその身体は疲れ果てていた。



足の傷が、焼けるように痛い。貌中がヒリヒリとする。


ベルシナは、こんな街だっただろうか?歩いてなど来たことがなかったから、今迄気付かずにいて、もしかするとこんな街並みだったのかも知れないが、しかし、違うような気もする。


いつから、こんなに金持ちが増えたのだろう?もう、何度も馬車とすれ違っている。馬車は、ある程度良い家柄である者の、ぜいたくな乗り物のはず。

娘は、朧げに、そんなことを頭に霞めていた。


一方、同じ街に住む、夜は“舞踏会”に勤める、亜麻色の髪に琥珀色の双眸の中年、ハーリーが、こんな昼時に、珍しく散歩をしていた。


今日は、一睡もできなかった。


昨夜の出会い。かつての可愛い妹に出会えた、待ち望んでいた奇跡が起きた興奮が未だ冷めなかったから。