「では・・・・・、わらしの前世はぁ・・・・・はくしゃくれえじょうらったと言うのぉ?」


夫人は酔いのせいで、半分虚に座った目でバーテンダーをトロンと見つめながら語りかけている。


「そのようですね」


中年のバーテンダーは、口元に微かに笑みを浮かべ、もの静かな表情を飾っている。


「本当ならぁ、なぁんて素敵れしょお」

「本当ですとも。ここの会員になられている方は、大半がそういった人達なのです。なぜならば、前世にここで踊り明かした夜ごとの舞踏会が忘れられなくて、本能的にここへ集まって来ているのですから。・・・・・・皆様は唯、その記憶を遠い昔に置き去りにしたまま転生きてしまったのですが、誰もそれに気付けないだけなのです」

「“ほんのお”ねえ・・・。きょおは・・・めずらしぃ~く、よ~っく、しゃべるるる… わねぇ~ん。はあ~りたらら・・・・・」

「・・・・・」


バーテンダーと飛ばれた男は、だんだんこの酒に酔った夫人の呂律も回らぬ言葉に理解不能になっていた。



ふと、フロアーへ目をやると、踊る姿がよく目立っていた若い男女がこちらへ歩いて来るのに気付いた。


この辺りでは見慣れぬ珍しい漆黒の髪が、よけいに懐かしく目を引いていたので、不意に何度となく目を向けてしまっていたし、後からついて来る栗色の髪の背の高い青年も、見た目はその娘の相手として相応しそうだが、その割に、その容姿には不釣り合いなほどにダンスは得意ではないらしいのが観てて分かり、二人の踊る姿は周りの者を楽しませ、別の意味で目立ち、目を引いていたのだったのだが・・・・・・。



「ご休憩ですか?いらっしゃいませ」


二人がカウンターの中央の席ににつくと、中年のバーテンダーは、ゆっくりと頭を下げ、品よく口元に微かに笑みを浮かべながら声をかけてきた。


ここへはよく来慣れているミサは、見覚えのないバーテンダーに気付き、彼の名を確認すべく、胸元に目をやった。バーテンダーの胸元には、小さな金バッチが付けられていて、『ハーリー』と、文字が彫り込まれている。


「ハーリー・・・・・と読むのかしら?私はミサ」


ミサはその男に気安く声をかけた。