「アン、ドゥ、トゥワー・・・・・タ-ンして。

・・・・・あ~ん、もうっ!ちゃんと音楽を聴きながら踊らなきゃ、ジョウめちゃくちゃよ!」

「ミサがいきない難しいリードを求めるから、そんなハイレベルなこと、俺にはまだ無理」

「だって、さっきは出来たじゃない」

「ただの偶然」

「偶然でも一度出来たら二度出来るはずなの!」

「疲れたよ・・・・・ミサ!ほんの少しでいい、・・・・・ちょっと休憩…させて・・・くれない?」


息を切らしながら、ジョウが言う。


「全く、ジョウったらぁ・・・・・。もっと体力付けなきゃ!いつも人形作りに没頭してるのもいいけど、たまにはこうして汗もかかないといけないわ」


ミサは飽きれた声で答え、ダンスを中断し、ジョウの衣装の胸の裏側のポケットにしまいこまれた懐中時計を、胸に手を入れ取り出して時間を確認した。


「もうこんな時間・・・・・!私も少し疲れたわ。今日は終わりにしてお酒でもどう?」


ミサがフロアーの向こうに親指を指した。


「ああ・・・・・そうしよう」


ジョウは意見に賛成し、ミサの後について歩いて行く。


ミサの示したフロアーの向こうには、カウンターがあり、踊り疲れた時にはそこで贅沢にシャンパンやカクテルなどを飲みながら休むことができるようになっている。


【BAR・アレクサンド】と、カウンターの上方に看板が下げられていて、そこには一人のバーテンダーが立っていた。


亜麻色の髪に琥珀色の眸で、鼻の下には髭をはやしている、彫りの深い貌立ちの中年のバーテンダーは、リボン帯に黒いベストといった格好をしていた。その後ろには、数え切れない程、いろんな種の酒や幾種類ものクリスタルグラスが一面に並べられている。


カウンターテーブルの端には、自堕落な体制でそこに肘を突いて、バーテンダーと会話を楽しんでいる婦人がいた。どうやら夫人は、既に酒に酔い潰れている様子。