第五節:待ち望んだ奇跡


一方、ベルシナの会員制レストラン“舞踏会”は、ピアノの美しい旋律が響き渡り、いつものように、いつまでも踊り続けている、紳士・淑女達で賑いを見せている。


ダルダの人形店“ジュリアンドール”の、近い将来の跡継ぎである、うっすらとした栗色の髪の背の高い美青年ジョウ=クリストは、今日は黒のタキシードで決めている。


そして、ジョウと手を取り合っているのは、ベルシナの大商人として知られる、ベルシナ人(ベルシャン)の、サロン=ゾル=ド=ドルガンの一人娘。東洋の血を引く、この辺りでは珍しく美しい漆黒の髪と闇色の眸の、ミサ=ティアラー=ド=ドルガン。

その艶やかな長い黒髪は、頭上にまとめ、衣装は挑発的で大胆なデザインの、黒のイブニングドレスを纏っている。

その見事なまでの闇の色の衣装は、ミサの全身を包み込むのが当たり前のように馴染み、うなじ、首筋から、背筋までを堂々と見せつけ、ボディラインを辿って行くと、腰の辺りからドレスは割れて、その割れ目からは際どい程に美しい脚線美を覗かせて、異性の欲を沸き立たせている。


その官能的な美しさには、恋人のジョウでさえも顔を赤くしてしまったくらいだ。



自分ほどこの衣装が似合う者はいないだろうと自負するミサは、周囲の視線を一身に集め、彼女に魅入る幾つもの視線に快感を覚え、つい満悦な笑みを浮かべてしまう。


注目を浴びるのは嫌いではない。しかも、相手は誰が見ても恥ずかしくない、美しい青年で、踵の高い靴を履いたミサと比べても尚、ひけを取らない長身。まさに、絵に描いたようなカップルだろう!と、ミサは優越感に浸っていた。



さて、それはそうと・・・・・、この若い二人のカップルも、先日めでたく婚約も成立し、二人は来週ここで急遽行われる婚約披露パーティーの為に、ダンスのレッスンをしている。


それというのも、ダンスが苦手なジョウに恥を欠かせないようにするために、ミサに強制的に強いられたレッスンの時間だった。


この、絵に描いたように美しい二人は、周りで踊る者やテーブルについて酒を呷っている者たちを充分に楽しませていた。