第四節:目覚め


草木も眠る“闇の中の刻”。


時を知らせるオルゴールの三重奏が店内の静まり返った闇の中で響き渡っている。


何も変わらぬはずの、いつもと同じオルゴールの音は、しかし、いつまでも鳴り止むことを忘れたように止まらない。



真っ暗な闇の中の、唯一の明かりである月の光が窓から溢れ、一人の美しい娘の透けるような黄金色の髪が、月の光を湛えて幻想的に輝いている。


まるで時代錯誤な、真っ赤なドレスに身を包んだ絶世の美女が、オルゴールの奏でる懐かしいメロディーが響きわたる闇の中で一人で佇んでいた。



(ここは・・・どこだろう?)



見慣れぬ情景に、一人不安げに辺りを見渡すが、確かにここは住み慣れているはずの我が家と思う。



物音を立てずにそっと窓辺へ歩いて行き、外を眺めると、そこだけはいつもと変わらずに、既に枯れきってはいるが、ソ-プリリアの花畑が視界に広がっていた。



黄金色の髪の娘は見慣れた情景に安堵し、小さな唇の端を思わずきゅっと上げ、愛らしくその顔を飾った。



娘は静寂を壊さぬように足音を忍ばせ、そろりと、店頭まで歩いて行き、人形店“ジュリアンド-ル”の扉の鍵を内側から解除して、そっと扉を開けて外へ出た。



狭いながらも、庭には辺り一面にソ-プリリアの花畑が広がっている。そのソ-プリリアの一つをその手に取ってみると、茎の先端には花を開くことも出来ずに枯れかけている蕾が幾つもついていた。


娘がその蕾にそっと息を吹きかけると、蕾はゆっくりと動き出し、淡い紫色の華麗な花を開いて見せた。


そして・・・・・、娘は息を深く吸い込んで、高く澄んだ声をその唇から洩らし、柔らかいメロディーの唱を唱い始めた。