「じゃぁなぜ?」

「そこらの物と一緒には出来んのでな、こいつだけは・・・・・。

もしその人形を引き取って、サロン氏の身の回りで良くない事が起きた時には、金は全額返し、人形は直ちにここへ返してもらう事にしよう」

「何かが起きる?」


ジョウは、この人形に言い伝えられている話の事を、頭によぎらせた。


ジョウはこの人形が、このガラス戸の外の世界へ持ち出されたのを見た事がない。それは言い伝えのせいでもあるのか、それとも値札も付けられていないこの人形に、誰もが想像できぬ程の値を付けられていた為か?


しかしダルディは、どうやらすっかり言い伝えを信じている様子だ。普段なら言い伝えや人の噂など全く興味を持たないのに、この人形だけにはいつも神経質になり過ぎている。


「じいさんは本当に何かが起こったのを昔に見ているのか?」


ジョウはそんな事を聞いた事もないが、尋ねてみた。


「わしは見てはおらん。しかし、わしのじいさんの子供の頃には、そのまたじいさんが金欲が強かったらしく、こいつを売っては金儲けをしていたと聞く。しかし、なぜか必ず人形は戻ってきたらしい。持ち主がいなくなってな……。

だから、わしのじいさんの父親の時代から、この人形はずっとここを出た事がないんじゃよ。

わしにはこの人形の周りで何が起こったのか、詳しくは分からん」


ジョウはダルディの話を聞きながら、ぼぅ…っとガラスの向こうの人形を見つめていた。


そんなに昔から、このガラスの向こうに閉じ込められたままなのか?と、悲しそうな眸で、声は出さずに胸の奥で人形に語りかけていた。


いつも人形が頭の中に話しかけているように聞こえていたのは、全て自分の思いこみだったのか?いつだってこの人形は棚に閉じ込められていても、ここにいるのがあたり前のように、幸せそうにしていると信じていた。

何故ならば、“彼女”が「私はずっとここにいるわ・・・・・」と、そう言っているように思えていたから。


しかしジョウはその人形を哀れんだ。もっと自由にしてやりたい。ここから出してやりたい・・・・・と。



「その条件を呑んでくれるのならば、9200ベルクで譲ろう。と、サロン殿にはそう伝えてくれ」