彼は十年前、祖父に並び尊敬する父を亡くし、亡くなった父の代わりに店の後を継ぐことを決心したというが、そのせいで才能を買われていたデザイナーへの夢を諦めなければならなかった。



当時、まだ、僅か十三才だったにもかかわらず、己の志をしっかり持っている生真面目な性格の少年だった。



最近では、店の経営も殆どが彼に任されるようになり、商売の面白みさえ感じるようになっていたし、店の経営を進めて行くうちに、彼は“新しい目的”というものを胸に描くようになっていた。


“新しい目的”とは、諦めたはずのデザイナーの夢と、物置部屋で埃をかぶっていた骨董品や、宝石、貴金属に見いだした魅力と、その価値を見極める眼力をもとに、いずれは、人形店だけではなく、ブティックや骨董品、貴金属の店などの店も経営したい、と考えていた。


そのせいもあってか、最近は、この店内に自ら手掛けた婦人服やスーツが飾られ、それから、素人が見る限りでは、まるでガラクタのようなものが机の横に積み上げられている。


婦人服やスーツは、人形の衣装のデッサンのファイルを公開し、注文されたものを人形に着せるという発想から始まり、ある婦人の要望に応じたことがきっかけとなり、実際の人物が着れる衣装も縫うようになった。



そういった衣装は、大抵注文を受けた時に限り縫い上げ客の手に渡していたが、時には彼の気まぐれで縫い上げられることもあり、そういった衣装は、こうして店内にディスプレーされている。



全ては一点物で同じデザインの物は二度と作らない、というのが彼のモットーだった。