逆回りの柱時計は“陽の来の刻”を知らせ、しかけられたオルゴ-ルの音の三重奏を店内に響き渡らせていた。


店を開く時間の合図・・・・・。



ジョウはふと、傍らに在る古ぼけた木の棚のガラス戸の向こうで頑なにこちらを見つめている人形に目を向けた。



『踊りましょう!』

ジョウには、この人形ジュリアンが、そう語りかけているように思えた。


この時計の時刻を知らせる音を聞く度、時々思う事がある。それは、この三重奏の美しいメロディーに合わせて、ガラスの向こうのジュリアンが踊り出すのでは?という期待で、つい現実を忘れてしまうこと。



「俺はダンスは苦手なんだよ・・・・・」

 頭の中の幻聴に答える。


 クスッ・・・・・。

ジョウは、またいつもの癖で、そんな幻聴と会話をしている我に気付き、笑みをこぼした。


「全く・・・・・、君は不思議な奴だよ。俺も、ミサも、君に夢中さ。

本当のところドルガン氏も、じいさんも・・・・・みんなそうさ。今度の事だって君のせいでもめてるんだぜ」


人形に向かって真面目な顔で、そんな言葉を投げかけているジョウは、再び我に返る。


「クスッ・・・・・ハハハ、アハハ・・・・・」



まるで、いつでもこちらを見つめる深い碧色の双眸が何かを訴えるように見え、その小さな唇さえ今にも動き出し、ジョウがこうやって語りかけたなら、いつでも返事が返ってくるような気がしてしまう。



ジョウだけではなく、誰もがこの人形に向かって話しかけてしまう事を癖にしてしまうだろう。この人形にはそんな魅力がある。


そして、返事が返ってこないのに気付き、我に返り、今度もジョウは独り言を人形にぐちって一人で笑いだしていた。