第三節:『ダルディの条件』


暖炉では、赫々と燃える炎がパチパチと音を立てて踊っている。


やせ細った老人の手から、餌である新しい薪をくべられると、勢いよくそれを呑み込んで、久しぶりに火をつけられた暖炉の煙突からは、黒い煙が吐き出されている事だろう。


もう、そんな季節になっていた。


次の春などあっという間だろう。その時には、この店の店主の孫であるジョウが、新しく婚許けであるミサをクリスト家に迎え、店の後を継ぐことを、ジョウ自身は決心していた――。

が、その前に彼は、問題をひとつクリアしなければならなかった。



「なんと言われようが、そうしてもらうしかないんだ!」


声を荒だてているのは、当の本人ジョウ。


「許さん!・・・・・絶対に許さん!!」


ダルディは、意志を曲げぬ厳しい口調で断固と反対した。


「じゃあ、じいさんは俺にミサを諦めろと言うのか?」

「そうは言っていない。しかしそれだけはどうしても出来んのじゃ。何か他の条件で許してもらうが良い。おまえが本気ならばサロン殿も分かってくれるさ」

「いや、駄目だ!俺は確かに約束したんだ。いいかげんな約束をした覚えはない!

それに・・・・・迷信が何だと言うんだ?

もし本当だったとしても、ミサはここに来て一緒に暮らすんだ!この家から人形が持ち出されて行く訳でもないし、それにミサは女だ!今までの事件には対象外だろう?」

「おまえは、この人形の事を何も分かってはいない」

「ああ、分からないさ!実際にこの店の客で、そんな事件に巻き込まれた者がいたという話を聞いた覚えがないんでね。とにかく、今度ばかりはこの条件を呑んでもらわなければ困る!俺の明日がかかっているんだ。

いつまでもじいさんの言う事なんか守ってなどいられないんだよ!」

「・・・・・」



夕べから二人はずっとこの調子で言い争っていた。


同じ事を延々と繰り返し討論するだけで、既に一晩を越していた。