その人形は、その昔、ベルシナの貴族である男がダルタ-ニ王国の姫君に最後に送った物だと云われている。



誰が見ても羨む程、狂おしく愛し合っていた筈の二人だったのだが、姫君の義理の妹姫の横恋慕によって男は奪われ、姫君はその後姿をくらました――。


姫君は誰も知らぬ処で恋に破れた事を悔やみ命を絶った。と云う説もある。


そして、その男自らの手で作り上げた、姫君をモデルにして作られた美しい人形は、姫君の怨念だけを受け継ぎ、後にその人形を引き取る者の周囲の男という男を傷つけ、あるいは、命までも奪うこともあったと聞く。


供養などは全く意味がなく、その眸や身体から財産的な価値のある宝石だけを取り外してしまおうとか、あるいは、呪われた人形を焼き払ってしまおう・・・・・などと考えようものなら、全て死に至らしめてしまったという・・・・・。


そしてどうにもできずに、結局は、かつて姫君の実家であるダルタ-ニの離宮だった、現在はジョウの実家である、人形店“ジュリアンド-ル”へと引き取られ、戻ってくるのだった。



そんな言い伝えが秘められた人形“プリンセス”――。


ミサがどんなにその人形の魅力に捕らわれてしまっているのかは、ジョウにもよく解っている。現に、ジョウ自身でさえ、あの人形を見ていると胸が締めつけられる思いで、毎日その人形を見ているだけで時間は過ぎて行くくらい、その魅力は見る者を飽きさせない。


また、そうした時間は、ジョウにとっては新しい人形を作る為のイメ-ジを鮮明に浮かばせてくれる。


ジョウだって、それを何とか手元に置きたいという気持ちは一杯だ。このまま手放したくなどない。その人形を欲しがる客が現れるたびにそう思っていた。


しかし、今度の場合は例外だ。サロンはミサに与える為に、この人形を譲ってほしいと言っているのだ。所有権が変わるというだけで、人形が他へ持ち出される心配もない。


しかも、今まで被害にあっているのは全て殿方と聞く。


ミサなら大丈夫だろうか・・・・・?

もしもミサの身に何かが起きたら?


ジョウは考え悩んでいた。