日中はいつも解放されているその壊れかけた門をくぐると、そこには、ちょっとした庭園があり、今は既に枯れ果ててはいるが、季節には美しい花を辺り一面に咲き誇らせているであろう、ソープリリアの花畑が建物の扉までの道をはさんでいる。


庭園の中央には小さな噴水もあり、いつでも涼やかな水音の耐えない、ささやかな潤いを、日々保っている。


そして噴水の脇には、小さな白いテーブルが置かれていて、門からの小道は噴水の手前で二つに分かれ、それを囲むようにして再び道は合わさって、建物の方まで延びている。


それを行くと、建物の前に二,三段程の石の階段があり、目の前には“JURIAN・DOLL”と、文字を浮き彫りにした、古ぼけた木の看板がぶら下げられた扉がある。



その昔、ベルシナの貴公子から最愛の恋人へと送られた姫君の人形は、姫君の実家だったというこの場所に代々大切に保管されている、と知られている。


扉にかけられている木の看板を見ても判るように、店の名も、伝説の姫君の名を取って、“ジュリアンドール”とつけられていた。


そして、扉の向こう、御伽の国のような人形店“ジュリアンドール”の店内では、“伝説の人形を迎えに来た貴公子”かとみまごう程、高貴に満ちた面差しの若い青年が、店の奥の方で佇んでいる。


やや明るめの栗色の柔らかい髪と、同じ栗色の双眸の、目鼻立ちのくっきりした・・・・・いわゆる美青年。


彼は、この人形店“ジュリアンド-ル”の店主の孫、ジョウ=クリストである。


彼はこの店の店員でもあり、名の知れた人形師であり彼の祖父でもある、この店の店主、“ダルディ”の後を継ぎ、近い将来にはこの店の経営全てを引き受け、店主となる予定の・・・・・早い話が、ここの若旦那である。