ジュリアン・ドール

しばしの沈黙の後、サロンは答えた。


「君なら私もミサも文句は無い。しかし・・・・・そうだなぁ・・・・・」


そう言いながら、サロンは何かを企んでいる様な目でジョウを見た。


「しかし・・・・・とは・・・・・何か?」

「私もな、こいつが可愛くてたまらん。こいつの望みはどんな小さな事でも叶えてやりたいのだよ・・・・・」

「お父様、何が言いたいの?」


ミサは、サロンなら二つ返事で許してくれるとばかり思い込んでいたのに・・・・・、ミサにはサロンの考えがよく読めなかった。


「私はジョウと一緒になれれば幸せよ。それが私の望みなのよ」


サロンは必死なミサの眸と目を合わせると、ニヤッと悪戯な笑みを見せた。ミサをからかう時に良く見せる、悪ガキのような、何かを企んでいる笑みを・・・・・。


娘だからこそ判る。父親の悪戯な微笑みは、確かに何かを企んでいる。


(いったい・・・・・何を考えているの?!)

 ふと、ミサは不安にかられた。


「では、どうすればお許し頂けるのでしょうか?」と、ジョウは真剣な眸で冷静に尋ねた。


サロンは再び、ゆっくりと話し始めた。


「私はこの冬には仕事の関係で遠い国へ行かねばならないのだが、そうしたら、暫くは還って来る事は出来ないだろう――。そう、おそらく三~四年は・・・・・。」


――絶句!

ミサは驚いた。そんな話は初めて耳にしたのだから無理もないだろう。


「ど、どういう事・・・・・お父様・・・・・?」

「まあ、とりあえず聞いてくれ」


サロンは、ミサを無視し話を続けた。


「その時にはミサを連れて行くか、君にミサを任せるか、どちらが良いのか悩んでいたのだ。最終的にミサは君を選んでしまうのだろうか?と思うと、なかなか言い出せなくてね・・・・・。

しかしまぁ、これもいい機会だ。やっと打ち明ける事が出来て有難い」


サロンの発言に驚き、ミサは小さな掌を唇に当てて、闇色の眸を囲む黒い睫毛を涙で濡らしていた。