やはり、娘が危篤だったと言うのはミサがついた大げさな嘘だったらしい。

前世では父親の愛情に飢えていた彼女は、今は一人っ娘に育って、父親の愛情をしっかり独占しているという事を知り、ハーリーは我が身の事のように喜んでいた。


(・・・・・・?)



ふと、ハーリーはサロンの笑い声の中に既視感を覚えた。



(この笑い方・・・・・・まさか!)



その声には確かに聞き覚えがあった。この懐かしい、高らかな笑い声。ふと思考がトリップして、ハーリーの頭の中に七百年余り昔に聞いた会話が聞こえてきた。



『馬の世話を一人で?』


 嬉しそうに聞き返す、ダルターニ王国、国王。エルストン二十一世の声。


『そうです。馬小屋を掃除するのも、餌を与えるのも、手伝おうとすると、いっちょ前に私たちをお叱りになるのですよ』


何かの状況を説明する若い男の声。ハーリーもよく知っている、自分の父である国王の側近の一人、シュレイツの声だ。



『では、毎日干し草にまみれていると言うのか?』

『そうなのです。それで、昨日の朝、突然馬小屋から大きな泣き声が聞こえてきたものだから、何事が起きたかと思い、慌てて馬小屋に駆けつけましたら、姫様はお尻に糞をつけて泣いていたのです』

『糞を?』

『はい。転んで尻餅を付いた拍子に糞の上に上がってしまったのでしょう。それが余りにもショックで・・・・・』

『これは傑作だ、あっはっはっは・・・・・余りにも・・・いじらしく・・・クククッあっはっはっは・・・・・』

 国王は、大声をあげて豪快に笑っていた。



(この声、この笑い方。これは父上の笑い声だ)



ハーリーは、度重なる奇跡に驚いていた。次第にサロンの眸の奥から、歴史の向こうが見えてくる。エルストン二十一世の姿が懐かしくハーリーの胸を熱くさせた。



(父上・・・・・!)