「あのお酒は貴方には強過ぎるわ」

ミサがそう言うが、確かに、ミサの残していったモカスニックを飲んでしまった後、急に眠気が襲って来たような気がする。



「ああ、心配かけたね。今日は、明日も早いのでそろそろ・・・・・」



ジョウが時間を気にして席を立ち、隣の席に座ろうとしていたサロンに向き直った。



「そうしなさい。明日は“陽の来の刻”に馬車を迎えによこそう」



 サロンがジョウに気を使ってくれているのがわかる。



「申し訳ありません。では、お休みなさい」



ジョウがサロンに頭を下げて挨拶をすますと、ミサは「では、お父様、私はジョウをお部屋まで送ってくるわ」と、ジョウの右側へ回り、ジョウの腕に自分の細い腕を絡めた。


「さあジョウ、部屋まで送るわ」



ジョウはミサに促されるままに頷いた。



「ああ、そうしなさい、こちらもそろそろ馬車が迎えに来る時間だ、私はここで待っている」



そして、ハーリーとサロンは、ミサに連れられ部屋へと戻るジョウを見送っていた。



「さてと、それでは一杯いただけるかね?」

「はい、何にいたしましょう?」

「そうだな・・・・・ベルシャンロックを」

「はい、かしこましまし・・・・・た」


ハーリーは快くサロンの注文を受け、ミサの瞳を通してしか見た事の無かったサロンの顔を、その時初めてじっくりと見つめた。白髪混じりの口髭を生やした紳士的なこの中年の顔を見て、ハーリーは、どこかで見覚えのある顔だ、と思った。


良く思い出してみると、今朝の・・・・・!


ハーリーは、今朝交差点でジュリアンが馬車に跳ねられそうになった時のことを思い出した。目の前にいるのは、あの時馬車を走らせていた主人だった。その時のことをすっかり思い出し、ハーリーはサロンに問いかけてみた。