第四節:記憶


「お作りしましょうか?」

「あ、お願いするよ。同じものを」

「かしこまりました」



ハーリーは、古いグラスを片付け、専用のよく磨かれた新しいクリスタルのグラスを目の前に置き作業を始めた。


無駄のない作業。それでいて時には余裕な顔を見せ、シェイカーを空中で回転させるように放り投げてキャッチ。そしてシェイク・・・・・と魅せつける。


ハーリーに、好意を抱いていなかったはずのジョウさえも、ついそんな得意げなハーリーに視線を奪われてしまう。


街のバーなどで働いているバーテンダーの様に、格好をつけて気取っている、というようには全く見えない。どちらかと言えば、むしろ自分がそうやって楽しんでいるように見えて、どんなに難度の高そうな決め業を見せても、全く嫌みには見えず楽しませてくれる。


(さすが、ハーリー・・・・・)


ジョウは、酔いのせいか急に睡魔が押し寄せる中、そういえば今日はハーリーを待っていた時からミサと一緒に何倍呑んでいただろう?と、考えながら、ゆっくりと眠りに堕ちていった。


(オレはそれまで、酒など一滴も呑まなかった筈なのに・・・え?何を考えているんだ、オレは、今まで何倍も・・・呑んで・・・・・)



やがて、目の前に色鮮やかな深い碧色の……いつものカクテルが差し出されたが、つい今までカクテルを作っていたはずのハーリーはそこにはにはいなかった。


ジョウにカクテルを差し出したのは、見事な金髪の、口髭などない若く清潔そうな青年・・・・・。


いつもの顔なじみのフレアーでもない。しかし、この琥珀色の眸は紛れもなくハーリーだ。と、非常識なことを何故か自然に思えていた。