ジュリアン・ドール

こんなに馴染み易い“音”が出せるなら、誰もが彼の演奏を求めるだろう。彼の“音”で踊りたい、と。

(ハーリー=アル・バ=クライン=ラウド・オードリー)


不意に、ジョウの頭の中にハーリーの名前が思い浮かんだ。


フルネームなど聞いた覚えがないのに。


なぜ、そう思ったのかは分からないが、確信に近い記憶のような気がした。



「ハーリー=アル・バ=クライン=ラウド・オードリー・・・・・まさか、唯の思いつきだろう・・・」

自分の思いつきを認めてしまえば、昨夜の非現実的なハーリーの話を認めてしまうような気がして、ジョウは頭の中に浮かんだ名前を無理矢里に掻き消した。

(そう言えば、昨日、ミサが帰った後、ハーリーが妙なことを言っていたな。


あのカクテルが、あの人形の眸の色をしている事を、彼は知っていた。と言っても、代々いろいろな事件を巻き起こしては、帰ってくる、知る人ぞ知る言い伝えの呪いの人形だ。

家はダルダでは名のある人形店だし、一度でも店に足を運んだ事のある客であれば、知っていてもおかしくはないのだが。

それにしても、彼に対するミサの態度。ミサの性格上、誰にでも親しみを込める癖を、今更つべこべ言っても仕方がないが、しかしハーリー、あの男には何か違う感情を抱いているように見えてしまう。


何かがちがうんだ。

くそ!ああ、苛々する)


ジョウは、何やら胸に沸き立つ感情をどうする事も出来ず、カクテルグラスを手に、酒を呷ろうとした。が、グラスは空っぽだ。 それに気付くと、ジョウはグラスを攫もうとした手のやり場に困って、その苛々を握り拳にして、カウンターを叩きつけていた。


曲が止まる。


このフロアー中の誰もが、ハーリーへ歓声を上げていた。



「ブラボー!Mr・ハーリー」

「ハーリー、アンコール」

「最高よ!」